「普通に良かった映画だったね」 。
今週のお題「ふつうに良かった映画」
「普通に良かった映画だったね。」
彼が困ったように笑った。
普通に良かったってなんだ、普通に良かったって。そんな事を思ったにもかかわらずあたしはつられて、
「うん、普通に良かった映画だったね。」
私は少し怒ったように笑った。
普通に良かったってなんだ、普通に良い映画っていったい何なんだって思いはだんだんどうでもいいことに見えてきて、くるくるとまとめて空っぽになっているポップコーンのカップにシュッと投げ入れた。
「あそこ、普通においしいって噂のイタリアンがあるんだって。」
彼が困ったように笑った。
普通においしいってなんだ、普通においしいって。普段口にしている食べ物さんたちは一体普通に考えてなんなのだろうか。普通においしいってことは、毎日の料理は普通にまずいのだろうか。消費期限が過ぎることは普通のことだろうか。そんなことを思ったにもかかわらずあたしは彼の言葉につられて
「あー、あたしも、普通においしいって聞いたことある。」
あたしは少し怒ったように笑った。
普通においしいってなんだ、普通においしいイタリアンっていったい何なんだ。トマトが新鮮なのか、パスタがもちもちなのか、一体なにが普通なんだって思いはだんだんどうでもいいことに見えてきて、くるくるくるとまとめて彼の大きすぎる靴のせいでできているかかとの後ろの空間にスコーンッと投げ入れた。
「この後、普通どうするっけ、、。」
彼が困ったように笑った。
もう今日は、普通に夜になっていた。こうやって普通にカップルの一日とは終わっていくのだろう。普通のデート。普通の一日。もうあたしはどうでもよくなってきたので彼につられて、
「そうだね、普通は、、。」
あたしは少し怒ったように笑った。
普通に続く言葉はきっと普通なのだから普通にわかるはずなのに、普通に恥ずかしい気持ちを普通に沈黙で隠そうとするのは、きっと普通のことだからなのだ。そしてこの理論はどこに行ったって普通に通用するのだ。でもそんなことを考えることは普通にどうでもいいことに見えてきて、目先の欲にべたべたべたと普通を貼り付けて彼の普通のパンツの中にドーンッと突っ込んでやった。
「今日、普通に良かったセックスだったね。」
彼が今日初めて普通に笑った。普通に良かったってなんだ、普通に良かったセックスって。それは普通のセックスだったから普通に気持ち良かったのか、普通のカップルだったから、普通のあるべき行為があったのか、普通の愛がそこにあったから、普通の愛がよかったのか。普通の男女が普通の成り行きでそうなれば普通はそうなるのだろうか。それ以上も以下もなくて求めてもなくて、でももし、それ以上も以下もあったら、普通のセックスの概念はなくなってしまって、この世のすべてはふつう、ふつう。普通に合わせていれば普通に幸せになれる。あたしもふつうにつられて言った。
「うん、普通に良かったセックスだったね。」
そして、ごくごく普通に朝を迎えた。少し冷えたベッドのなかで。
普通、普通、皆で渡ろう。ふつう、くつう、ふつう。
普通、普通、皆で笑おう。ふつう、ふつう、ふつう。
皆で、みんなで、ミンナで、普通の手をつなごう。
普通の世界を守っていこう。
皆で、みんなで、ミンナで、普通の手をつなごう。手をつなごう。
普通の世界で生きていこう。
らーらーらー♪
らーらー♪
らー♪
ら♪
♪
いちぬけたっ。