てんしの自由帳。

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Decade .

今週のお題「10年」

 

Decade

【名】:10年間

 

僕は今日10歳を迎えた。だから年を表す漢字も才みたいな子供っぽいのじゃなくて、歳って書くようにした、今日から。それから丁度今日が誕生日だった僕にぴったりの行事が学校であった。それは二分の一成人式っていうやつだった。ようは、半人前だね、おめでとうとお祝いしてもらえる行事だ。初めて二分の一成人式という言葉を聞いたとき、上半身と下半身に分けるのか、左半身と右半身に分けるのかと考えて、それなら上半身をお祝いしてほしいなとなんとなく思った。だけど、先生の話を聞いていると僕の思っているものと違った。ようは、20歳になるとおこなわれる成人式のミニミニ版である。10年間生きたからって過去も未来も、現在もなんも分かんない僕だけど、とりあえず、それは、おめでたいことらしい。おめでとう、僕、それから、これからも、よろしく。僕はなんとなく自分を褒めてあげた。恥ずかしいけど、なんとなく、自分を誇りに思った。僕の体全身が成長していくことに喜びを感じ、これからの未来は希望で満ち溢れていた。明日の漢字テストもうまくいく気がした。そうだ、僕は10歳だ、なんでもできる、10歳だ。明日の学校も楽しみだ。自然と顔の筋肉が緩んで、僕はにやにやと窓の外を見渡した。窓の外で光っている光はすべて僕の中に吸収されるようなそんな感覚でいっぱいだった。明日は雨だ。それでも構わない。僕はなんだってできるんだ。それが10歳。なんてかっこいいんだ。僕は10歳なんだ!

 

Decade

【名】:10年間

 

僕は今日20才を迎えた。それから年を表す漢字がなんとなく気取っているみたいにみえて嫌だから、天才の才に戻した。そりゃ、子どもの頃は難しいことがかっこよくみえるんだ、今思えば恥ずかしいけど。それから、丁度今日が誕生日だった僕にぴったりの行事が市であった。ようは、一人前だね、おめでとうとお祝いしてもらえる式典だ。僕自身、すべての部分が成長して全身をお祝いしてもらえるのだ。そして、いわゆる大人の仲間入りできる片道切符を買える【にんげん】になった。もう小さな運動場を先輩と取り合ったり逆上がりができないからと悔しくて泣きじゃくったり、あおい空の中を飛んでいく雲と一緒にゆっくりと遅刻することも、かき氷を一気に口の中に放り込んで頭痛に悩まされることはない。そして、もう小さな責任を丸めて誰かにえいっと投げつけたり、自分の都合と偶然で行動できなくなって、はたまた、大きな夢を背負って頑張ったり泣いたりすることができなくなって、その瞬間を生き抜いていくことがなくなってしまうのだ。それは、強くなることなのか、弱くなることなのか。振り返ってみて、私のこの19年間の歳月の中で、生きていて良かった瞬間だけを切り取って繋げたら一体何週間の生涯になるのだろうか。

これから目を閉じて朝を迎え、私は【にんげん】になる。

 

そして初めて吸う空気にはどんな僕が混じっているのだろう。これから吸う空気はどんな僕をつくっていくのだろう。

 

僕は目線を落とした。それから、そっと、窓の外を見た。窓の外はあの頃よりも光輝いている。外の景色は変わっていくのに僕はこの窓枠から飛び出せないままだ。それでも僕は20才だ。今日は、今日だけは、僕を褒めてあげよう。おめでとう、僕、ありがとう、僕。僕、よく頑張っているじゃないか、それで、いいじゃないか。そして、これからも、よろしく。