てんしの自由帳。

ぼちぼちてんししてます。文章・写真のお仕事受け付けております。何か依頼があれば連絡ください。tenchan329@gmail.com

住処 。

 

今日も彼のバイトが終わるのをずっと待っている。そろそろ深夜三時、あと三時間三時間。あたしは寝ないで彼のバイトが終わるのをただただずっと待っている。その間、あたしは彼のギターを彼っぽい手つきでかき鳴らしてみたり(もちろん弾けない)、昨日着ていた彼のシャツのにおいをはしからしまで嗅いでみて、一段落ついたら今度はなめまわしてみたりもした。それから冷蔵庫から、彼のコンビニで買った(レジ打ちは違う男の人だった)烏龍茶をとりだしてごきゅごきゅとのどを泣かせて飲んだ。ただひたすらに飲んだ。でも結局、あたしにできることの限界っていうものが存在するため、あたしは烏龍茶500mlペットボトルの半分も飲むことができなかった。そのままなんとなく服を脱いだ。少し寒い。少し寒い。あたしはなんとなく生きていることを確認したかったのだろう。つけっぱなしのテレビとラジオとユーチューブの音の中からまた彼の後姿を探した。三人の話の内容は一向に理解できないし、そもそも一緒に話をされたらあたしだって聖徳太子じゃないんだから全然聞き取れない!それって、あたしが理解しようとしてないから?欲張りだから?彼のことがすきだから?この部屋にあふれ返っている彼の好きな本やCD、チノパンや歯ブラシ、その中にあたしがいる。それでいいじゃないか!この部屋には愛しか溢れていないのだ!!それからあたしはブラを外した。もっと寒い。もっと寒い。もうここまで来るとあたしがあたしじゃなくて、自分でも何をしているかわからないけれど、このままずっとずっとこのままずっと、彼の青い布団の中に包まれて息ができなくなって死んでしまって、このままずっとこのままずっと、生きていくんだろうなって考えがぐるぐると頭の中を泳ぎ始めた。あたしはいつからリピート再生を自動にできるようにしてしまったんだろう。あたしは、三人に向かってもう一度みんなのことを理解したいと思ってる、でも、一人一人のことを理解したいとは思ってないと優しく言った。(だからきっとみんな怒ってはないだろう。)そして、一人一人の口を閉じるように、静かな声で命令した。冷たさを漂い始めた部屋であたしは半径30cmにあるだろう白い酸素をすべて吸い込んでから、あたしの中の黒い二酸化炭素をすべて吐き出して、本棚の上に飾られているサボテンに吹きかけた。それからあたしは40分死のうかどうか迷ったけれど、彼がすごくいいから聞いておいてと言っていた曲をまだ聞いていなかったことを思い出したふりをして、とりあえずその曲を聴きながら遺書を書いた。その日あたしは死ぬことはなかった。(服も着た。)ただあたしはあたしに絶望しているだけだった。彼が返ってくる六時を迎えた。彼なら、彼だけは、あたしのことを認めてくれるだろう。だって彼の好きなものしかこの部屋にはないのだ。あたしは彼の青い布団の中で寝ていてもいいのだもの。それでも、彼が薦めてきた曲のすごくいいところを、あたしには理解できなかった。(真っ赤なジャケット写真は割と気に入ったけど)彼は乱暴に玄関の扉を開け、そこに座り込んでいるあたしを強く抱きしめたまま深い眠りについた。あたしはそのまま彼を抱えて布団の中で少し泣いた。彼の寝息がすぅすぅと聞こえてきた頃、あたしは一つだけしかない枕に一つだけしかない体をのっけた。残りの烏龍茶200mlをごきゅごきゅとのどを泣かして飲んだ。少し寒い。少し寒い。ここには愛しか溢れてないのに。