てんしの自由帳。

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僕のおむらいす 。

 

とりとめのないことを書こう。

 

手についた水性マジックをせっけんで少しこすって水で洗い流すぐらいの簡単さで、とりとめのないことを書こう。

 

僕は今、どういう季節の中で生きているのかがわからないから、とりあえず、長そでをずっと着ているよ。とりあえず、あ、生ビールでという具合で。少々暑くても、少々寒くても、とりあえず、あ、じゃあ僕も、生の人で、という具合で。そのほうが都合がいいのだ。そのほうが、僕を主張する必要がないのだ。この大きな世界の中で、僕の存在など必要とされていないのだ。僕はこの世界に無数といる。そしてなにより、大きな空気の中に沈んでいく感覚が心地よいことに気づいてしまった。そう、もう、僕は、僕ではないのだ。そして、僕は、僕でなくてもいいのだ。たくさんの情報と僕の気持ちがあふれかえっている中で、もう僕は、僕を主張しなくたって、誰かが僕の代わりに僕を主張してくれている。僕が何かを言いたいとしよう。それは、居酒屋でつまみを頼むという僕でもできそうなことであったり、人生についての少し重苦しい僕の話題であっても、である。手順は簡単で、主張しようとしている僕の言葉は、たった一本の指先をスッと動かしたら(まるで魔法使いが指先でごちそうを出すように)でてきてしまうのだ。それは、僕の生まれ変わりだ。僕の生まれ変わりは世の中にたくさんいる。だから、僕は僕を主張しなくてもいいのだ。もう僕は、誰なのかわからない、よくわからない、わからない僕のなれあいのなかに混ざり合ってぐしゃぐしゃになった僕だ。でも、それは確かに僕だ。僕だって同じ気持ちだ。それは、僕が言いたかったことであるはずだ。まだ何も知らなかったあの時、僕は、僕になろうとしてぐしゃぐしゃになって泣いた。僕は、僕に力があると信じていたのだ。あの時までは、僕は僕を信じることができたのだ。それでも僕は僕を見つけられなかった。僕の思い描く僕はあまりにもきれいすぎたのだ。大きなものに囚われて小さな約束も守れないまま、僕は動けないで、傷んでいった。混乱した頭の中で必死に考えようとしたよ、そりゃ。頭は混乱して、僕僕僕、僕の大洪水だったけれど、僕はオムライスを、たった一つの完璧な作品として僕のレシピ通りに作り上げることができたのさ。それは、とってもたやすいことだった、僕にとってね。僕の指示に僕が従えばいいだけ。でも、最後にケチャップをつける。その行為が僕にとってはとっても大変で難解だった。それでも僕は最後の僕を振り絞って上出来のオムライスにケチャップをつけた。残りの量が少なくて、容器を押すとブヒュブヒュといやらしい音をたてた。僕はケチャップで僕の顔を描こうとした。なぜだかわからないけれど、今僕は僕を思い出さなければ、もう、僕は僕のもとに帰ってこないと思ったのだ。僕の手が少し汗ばんでいくのがわかった。僕を確かめるという行為に僕は僕に突き動かされていった。気づいたら全身に緊張が伝わっていた。指先に全身全霊の僕が込められる。それから僕は、僕を、一気に駆け出して行ったのだ。

 

 

とりとめのないことを書こう。

手についたケッチャップを少し汚れた台拭きでこすって取り除くぐらいの簡単さで、とりとめのないことを書こう。

 

 

気づけば僕は僕を忘れていた。

僕は僕の中に紛れ込んでしまっていて、もう僕は僕を取り戻すすべがないのかもしれない。僕は僕は、ずっとぐしゃぐしゃのまま、生きていくのかもしれない。

でも結局それは、みんな、僕なんだろう。

 

きれいに形造られたオムライスに対しては多すぎるぐらいのケチャップの量がかかっていた。