てんしの自由帳。

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くらげ 。

 

山の上にぽつんと建てられた水族館へ暇つぶしでやって来た。特に目当ての魚もなかったので、たんたんと少し汚れている水槽を見ながら歩いた。客数は少なく、どの魚も寝ているように見えた。一階のフロアをある程度見回ったあと、二階でも展示を行っているということで、せっかくだから見ていくことにした。二階へと続く階段をコツコツと私の靴が叩く。

二階では、くらげだけが展示されるスペースになっていた。大中小さまざまな水槽で、くらげは上へ上へ、ふわんふわんと泳いでいた。その神秘的であり、かわいらしい様子を一目見た途端、私はくらげのとりこになった。一番大きな水槽では、くらげのライトアップが行われており青やピンクなどのサイケデリックな色にくらげが彩られていた。

ふわんふわんと一心不乱に上を目指して昇っていこうとするくらげは、一定の高さまで昇ると水槽のどこからか空気が出てくるのか、くらげはふらふらとまた水槽の底へと落とされていくのであった。しかし、くらげは無駄なことだとは気付かずにふわんふわんと一生懸命、透明な傘を開いて閉じて昇ろうとするのであった。その一定の動作を私はいったいどのぐらいの時間眺めていたのだろうか。熱中しすぎて焦点が合わなくなった頃、私は水槽の隣に張り付けてあるくらげの説明に目を通した。そして、どうしてもこの一文にまた心を奪われるのであった。

「くらげは光をはなっていて、水がないと死んでしまいます。」

そうか、なるほど、だからくらげはこんなにも私の心をかき乱すのだと。違う水槽に目をやると、先ほどのくらげよりも小さいくらげが展示されていた。そこにいるくらげも、ふわんふわんと上を目指していた。よくみると二匹のくらげの触手が絡まりあい、一匹のくらげのようになっていた。そしてこのまま二匹のくらげは一匹になったまま死を迎えるのだろうなと直感した。そして、これが、くらげの永遠の愛であることも感じた。一生を添い遂げ、一生を一緒に終わる、この海にはこんな暮らしが繰り広げられているのだ。くらげは愛のひかりを放ちながら、上を目指すのである。幸せを繰り返す水の中を漂いながら。

ずっと一緒にいれることが幸せなのか、離れていてもお互いのことを忘れないでいてくれることが幸せなのか、私にはわからない。それでもくらげはそのひかりを放って上へ上へと昇って行く。とても愛おしいものに見えた。もっと近くで見つめて、くらげのひかりを体中で受け止めたいと思い、水槽のアクリル板に手を張り付けてまじまじと見つめた。水槽の中には、小さくて幸せな海の水がちゃぷちゃぷと波打っていた。

その海の中に突然、飼育員が網をぽちゃんと無造作につっこみ、二匹になった一匹のくらげを捕まえて、連れ出してしまったのだ。それは本当に突然のことであった。二匹になった一匹のくらげはこのことを予知することができたのだろうか?それでも、二匹はずっと一緒なのである。幸せの繰り返しから、上をめざした。そして最期には、二匹になった一匹のくらげは、永遠の愛を手に入れたのだ。くらげが目指した上にはいったい何が広がっているのだろうか。私には到底思いもよらない素晴らしい世界が広がっているのだろう。